PCの性能進化は凄まじい。特に近年では性能を決める要素であるCPUやGPUは毎年のように新モデルが発表され、2-3年もすればアーキテクチャが切り替わり、5年も経てば最早埋めがたい差となって表れてくるのが現状だ。
しかしながら、我々が普段PCを使用している中でその事に気付く機会は少ない。これはソフトウェア側で、最新のモノからある程度古いモノまでしっかりと動くよう後方互換が整備されていることや、そもそも最新のPCをじっくりと試す機会がほとんど無いことが遠因と言えるだろう。つまり、PCを変えることによって「本来ならもっと早く、もっと手軽に行えていたことに気づいていないだけ」という可能性もあるのだ。
かくいう筆者も今回、最新のノートPCと自身のPCを比較するまで特に”困っていなかった”のだが、レビューを通して「そろそろ買い替え時期なのかもしれない…」と認識を改めることになった内の一人。
というわけで本記事では、そんな最新のノートPC「ROG Zephyrus G16 (2024) GA605」について特徴を簡単に紹介しつつレビューを行っていこうと思う。発売は2024年8月1日からで、市場想定売価は309,800円(税込)から。
ASUS
ROG
ROG Zephyrus G16 (2024) GA605
AMD Ryzen™ AI 9 HX 370を搭載した新モデル「ROG Zephyrus G16 (2024) GA605」
まずは以前ニュース記事でも取り上げている「ROG Zephyrus G16 (2024) GA605」について、簡単に紹介しよう。本製品はASUS社のゲーミングブランド「ROG」に属する高性能なノートPC。ただし俗に言う”ゲーミングノート”とは一味違っていて、過度に主張することないシンプルな外観と、クリエイター向けでも十分活躍できるスペックが持ち味の製品だ。
サイズとしては16インチクラスとなっており、幅354mm×奥行き246mm×高さ16.2~17.2mm。同じく16インチクラスの代表格ともいえるMacBook Pro 16インチ(M3 Pro)と、ほぼ同サイズと思ってもらえば分かりやすいかもしれない。重量も1.85kgと、このサイズのノートPCとしては比較的軽量で持ち歩きも許容できるレベルに抑えており、一昔前のゲーミングノートPCの厚さと重さを知っている筆者からすれば、NVIDIAのGPUを搭載しているとは思えない軽さに仕上がっている。
そんなROG Zephyrus G16 (2024) の中でも、本記事で扱うのは2024年8月に発売となったばかりのAMD Ryzen™ AI 9 HX 370を搭載したモデルだ。
AMD Ryzen™ AI 9 HX 370は、その名の通りAI処理などで使用されるNPUが大幅に強化されていることが特徴のCPU。またNPU以外の性能も順当に進化しており、12コア / 24スレッドのCPUは最大5.1GHzで駆動。デフォルトTDP 28Wながら、筆者がメインのデスクトップPCで使用している4年前のCPU「Ryzen 7 5800X (8コア / 16スレッド TDP 105W)」を32%も上回るベンチマークスコアを発揮する※という凄まじい代物だ。
※ PassMark掲載のベンチマークスコアにて比較。
https://www.cpubenchmark.net/compare/3869vs6143/AMD-Ryzen-7-5800X-vs-AMD-Ryzen-AI-9-HX-370
ポート回りとintel版「ROG Zephyrus G16 (2024)」との違い
また上記のCPU以外にも細かな違いはあり、ここでまとめて列挙しておきたい。ざっくりとした違いとしては以下の通りだ。
- バッテリー持続時間の一部向上
- Thunderbolt 4 → USB 4への変更
- メモリの動作速度が微増
- Wi-Fi7 + Bluetooth 5.4への対応
- Copilotキーの搭載
上2つの変化については主にCPUの違いによるモノと言ってしまっても良いはず。特にThunderbolt 4についてはintelが開発した規格のため、AMD Ryzen™ AI 9 HX 370の搭載に当たってより汎用的なUSB 4になったのだろう。もちろん映像出力とUSB PD(Power Delivery)による本体の充電機能は踏襲しているため、性能的な変化はない。
中央のUSB Type-C(Thunderbolt 4)ポートに添えられた規格表記が異なっている。
3番目・4番目に関しては、後発の製品らしく順当なスペックアップだ。
メモリの動作速度もLPDDR5X-7467(Intel版)からLPDDR5X-7500(AMD版)へと向上し、恐らく無線LANユニットが変更されたことによりWi-Fi7とBluetooth 5.4への対応を果たしている。前者のメモリーに関しては本当に微増のため体感できるほどの差が出るとは言えないが、後者の無線回りについては素直にありがたい。
なかでもWi-Fi7については、対応する無線LANルーターも必要になるものの、従来のWi-Fi6Eに比べ帯域幅は2倍となり最大通信速度は約3.7倍。加えてMLO(Multi-Link Operation)と呼ばれる複数の周波数帯域(2.4GHz、5GHz、6GHz)を同時利用できる機能が使えれば、速度はもちろん干渉波に強くなり安定性も向上するはず。標準で有線LANコネクタを搭載していない ROG Zephyrus G16 (2024) だけに、無線LANの性能向上は嬉しい方も多いだろう。
そして最後に一つ分かりやすい変更点が、Copilotキーの搭載である。以前ニュース記事でお伝えした際には筆者の認識から漏れていたのだが、視覚的には最も大きな変化かもしれない。
「ROG Zephyrus G16 (2024) GA605」はAMD Ryzen™ AI 9 HX 370を搭載しているため、Microsoftが提唱するAI PCの新基準「Copilot+ PC」に準拠しており、その結果としてCopilotキーが搭載されている。もちろんintel版でも規格上は問題ないのだが、発売時期が規格のお披露目前だったためAMD版から搭載となったのだろう。intel版では右側のctrlキーが有った位置がCopilotキーに変更され、ここからワンタッチでCopilotを呼び出すことができる。
個人的には右ctrlは良く使うキーだった故に若干残念でもあるが、今後のWindowsアップデートによってより便利な機能になっていくことに期待しよう。
その他については筆者の認識する限りintel版と共通になるため、詳しく知りたい方は以前の記事を参照していただければ幸いだ。
「ROG Zephyrus G16 (2024) GA605」の気になる性能をLightroomとPremiere Proでチェック
せっかくなので今回は、前回の記事(intel版のレビュー)では行わなかった「Adobe系ソフトを使用した際の動作」をチェックしてみた。
今回筆者がお借りしたモデルは
正式型番:GA605WI-AI9R4070G
OS:Windows 11 23H2
CPU:AMD Ryzen™ AI 9 HX 370
GPU:NVIDIA® GeForce RTX™ 4070 Laptop GPU / 8GB (最大105W)
RAM:32GB
ストレージ:1TB
使用したソフトはAdobe LightroomとAdobe Premiere Proだ。
「Adobe Lightroom」でAIによるノイズリダレクション(強化)をテスト
Adobe系ソフトの中では比較的軽量とも言えるソフトウェア「Lightroom」。一方で比較的軽量とはいえ昨年あたりで追加された「AIによるノイズリダレクション(強化)」はかなり動作が重く、筆者が普段使用している際にもストレスを感じるレベル。これを「ROG Zephyrus G16 (2024) GA605」で行ったらどうなるだろうか…。
使用したのは筆者が以前撮影した写真のRAWデータ計10枚。1枚辺り30MB前後で、解像度は7008 x 4672 pxだ。こちらの写真達にライトや色味の調整を行った後、一度に10枚まとめて強化を施し、実行時間を計測した。
結果としてかかった時間は「1分57秒42」、1枚あたり約11.7秒で処理ができたことになる。参考までに筆者の私物(デスクトップPCとMacBook Air)の結果も載せておこう。
- ROG Zephyrus G16 (2024) GA605:1分57秒42
- デスクトップPC(Ryzen 7 5800X / RTX 3060ti / RAM 32GB):1分51秒71
- MacBook Air 13インチ(M2 8CPU+8GPU / RAM 16GB):7分29秒82
見ていただくと分かる通り、「ROG Zephyrus G16 (2024) GA605」の処理速度は筆者のデスクトップPCとほぼ変わらない。PC全体でTDP 200W程度で動いてしまうノートPCが、CPUとGPUだけでもTDP 300Wを超えるデスクトップPCと変わらないのである。技術の進化とは恐ろしいものだ。
一方で大きく水をあけられてしまったのがMacBook Air 13インチで、かかった時間は3倍以上。この原因は実行中のタスクマネージャーを見るとわかりやすい。実はこの強化はCPU・GPU共にフルで使う挙動をするため、GPUの性能差がモロに出てしまった形だろう。筆者のように強化を頻繁に使用する方は、ノートPCであっても高性能なGPUが必要だと思って選んだ方が良いかもしれない。
「Adobe Premiere Pro」で4K素材をテスト
お次はAdobe Premiere Proで動画編集時の挙動をチェック。使用したデータは下記の映像を作成した際のモノを流用している。各動画素材は4K 120p H.264 / MP4 10bit 4:2:2だ。
そのため映像内で登場するPCは本記事で使用している製品とは異なるため注意してい欲しい。
データ自体が120pの10bit 4:2:2とかなり重めなことも有り、プレビュー画面がおぼつかない結果となった。ただしソフト自体は比較的軽快に動作しており、極端な引っ掛かりを感じる瞬間は無い。また手ぶれ補正を行うワープスタビライザーなどを使用しても、一瞬で処理が完了するため性能はしっかりと発揮されていた。
またコレだけでは味気ないので、手元にあった4K 24p H.264 / MP4 8bit 4:2:0のデータを使用し簡単なカット編集や色味の調整を行ったところ、こちらは再生もスムーズであり、書き出しまで特段不満なく進んでしまった。
この事から分かるのは、やはりPremiere側の問題で「4K H.264 10bit 4:2:2は、GPU(RTX)による支援が受けられない」という説の正しさだろうか。今回は時間的制約もあり断念してしまったが、いずれ複数の映像素材を用意して検証を行いたいところだ。
クリエイター向けソフトでも活きるWQHD+の有機ELディスプレイ
また2つのテストを通して感じたメリットの中で共通して挙げられるのは、「ROG Zephyrus G16 (2024) GA605」が持つディスプレイの美麗さと解像度の使いやすさだ。
今回お借りしたモデル「GA605WI-AI9R4070G」のディスプレイにはDCI-P3 100%の広色域な有機ELが使用されており、Delta E < 1の色精度も相まって写真や映像の色調整で使いやすい。DCI-P3はもともと映像をメインに決められた規格だが、近年では多くのスマートフォンやモニターでも採用されつつあるため、このディスプレイを基準に調整すれば大きなズレを起こすことはまず無いだろう。
加えて16インチという大き目のサイズは、2560 x 1600 pxという本機が持つ解像度とマッチしており、特にツールパレットやウィンドウで圧迫されがちなクリエイティブソフトとの相性が非常に良く窮屈さを感じることも無い。
一つだけ注意するとすれば、「ROG Zephyrus G16 (2024) GA605」はintel版と同じく兄弟モデルのRTX4060を搭載したモデルでは、有機ELではなく液晶パネルが採用されている点。こちらは色域や色精度などは記載されず、リフレッシュレート240Hzのみ言及されている。ゲームがメインで価格を抑えたいのであればRTX4060を搭載したモデルを、筆者の用にクリエイティブソフトを使用するならRTX4070のモデルを選ぶのをオススメしたい。
「ROG Zephyrus G16 (2024) GA605」はデスクトップPC並みの性能を秘めた高性能なノートPC
今回のレビューを通して見えてきたのは、筆者の環境は既に買い替え時期になりつつあるという残酷な真実だ。
「ROG Zephyrus G16 (2024) GA605」は消費電力も小さく、薄型軽量というメリットを持ちながらも3年前に作ったATXのデスクトップPCとほぼ変わらない性能を示しており、昨年購入したM2のMacBook Airは早くもクリエイティブソフトについていけ無くなりつつある。片や「まだ並ばれただけ」、片や「そもそも買った目的が違う」という言い訳もできるが、そうも言って居られなくなるのも最早時間の問題だ。
そんな時、いっそ高性能なノートPC1台で完結させるのも一つの選択肢だろう。
趣味のゲームはもちろん、クリエイティブソフトも動き、持ち歩きだってできる高性能なノートPCとなった「ROG Zephyrus G16 (2024) GA605」。もうこれ1台でなんでも出来る気がしてきた。
製品概要
製品名:ROG Zephyrus G16 (2024) GA605
発売日:2024年8月1日(RTX 4070 Laptopモデル)
2024年8月2日(RTX 4060 Laptopモデル)
市場想定売価:309,800円(税込)
製品ページ:https://rog.asus.com/jp/laptops/rog-zephyrus/rog-zephyrus-g16-2024-ga605/
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ROG Zephyrus G16 (2024) GA605