2015年に世界で初めて完全ワイヤレスイヤホンが発売されてから現在に至るまで、技術の発展と共に完全ワイヤレスイヤホンも進化を遂げてきた。
技術の発展によって共通してもたらされるものとして、利便性の向上があるだろう。
例にもれず、完全ワイヤレスイヤホンも有線接続から大幅に利便性が向上した。コードから開放されただけでなく、その他の機能も相まって高い利便性を実現している。
今回の購入製品は、そんな完全ワイヤレスイヤホンの利便性を体験するために必要な「機能」や「特徴」がある製品だ。 本記事では、NOTHING ear (1)の購入に至った魅力について語っていく。
デジタルな未来を想像する NOTHING TECHNOLOGY LIMITED
初めにNOTHING TECHNOLOGY LIMITED(以下、NOTHING)という企業について触れておきたい。
NOTHINGとは、CEO Carl Peiが2020年に英国で設立したデジタル製品の新興企業だ。
NOTHINGがミッションとして掲げるのは、人とテクノロジーの間にある障壁を取り払い、シームレスかつデジタルな未来を創造することである。
創造した未来とは、何ものとも違う見た目、活力、感触を持つという。
NOTHINGの由来は、将来に大きく進歩したテクノロジーが、生活にシームレスに統合されることでその存在を感じなくなり(Nothing)、あらゆる場所に存在するようになることを想像しているからのようだ。
優れたデザインで世界的に注目を集めた NOTHING ear (1)
NOTHING ear (1)はテクノロジーを人々に近づけるという取り組みを体現した、透明性を基盤とする設計理念から開発された製品だ。
本製品の目に見える特徴も隠れた特徴もすべてに目的があり、ear (1)というシンプルな製品名はあらゆるものをそぎ落とした製品の芸術性を反映し、ありのままの姿を受け入れるという野心を表している。
本製品のデザインやチューニングはTeenage Engineeringが手掛けており、デザインは透明感を表現するクリアパーツで内部構造の一部が見える形状を採用している。
チューニングは豊かで没入感のあるサウンドを提供できるようにソフトウェアとハードウェアの調整がされ、低音、中音、高音のバランスが取れたパフォーマンスを実現している。
利便性を求めて完全ワイヤレスイヤホンを検討
製品詳細の前に購入経緯についてだが、筆者は筆者なりではあるが音楽鑑賞用の環境は、モバイル環境を含めて最大限の高音質を目指して整えてきた。 その前提のもと有線接続の環境を構築し、音楽鑑賞以外の用途にも有線接続イヤホンを流用してきたが、日常の些細な瞬間に不便さを感じていたことが今回の発端となる。
不便さの要因は複数端末(DAP・iPhone・PC)の運用と有線接続イヤホンに接続時に生じる手間であり、筆者の現環境ではiPhoneとMacbook Airの接続には接続変換端子が必要となっているからだ。
iPhoneとMacbook Airでの利用においては、有線接続イヤホンの流用を止め無線接続イヤホンの導入によって解決できる事柄である。 用途的にも高音質を求めていないため快適性を追求する方向で検討をはじめた。
MacとiPhoneに適したイヤホンが前提条件
必要となる機能を考えるには、用途を明確にすることが重要だろう。
筆者はiPhoneとMacbook Airでの接続が前提にあり、その条件からイヤホンを活用する状況について洗い出している。
①iPhone
動画鑑賞と音楽ストリーミングサービスでの音楽検索やBGMを聞く際にイヤホンが必要になる。 筆者は主に、外出時の電車内でイヤホンを利用することが多い。
②Macbook Air
仕事で毎日オンライン会議があるためイヤホンが必要になる。 立て続けに会議が入ることもあり、最大4時間ほどイヤホンを装着し続ける状況もある。 また、なるべく静かな環境での利用が理想ではあるが、人の声が飛び交うような状況も念頭に置いておく必要があるだろう。
総じて、毎日の利用を想定しているため充電も容易である事が望ましい。
用途から機能要件を考える
用途や状況から必要となる機能を考えた結果が以下となる。
- 完全ワイヤレスイヤホン
- 接続の強度
- 端末の接続切替の容易さ
- アクティブノイズキャンセリング(ANC)
- 外音取り込み機能
- マイク性能
- 装着感
- 運用の利便性(使用可能時間・接続コード・充電方式など)
無線接続イヤホンにはいくつか分類があり、代表的なものが左右一体型(ネックバンドタイプなど)と左右分離型(いわゆる完全ワイヤレスイヤホン)になる。 複数の分類がある中で後者の完全ワイヤレスイヤホンを選択しているのは、ケーブルレスによる快適さや収納面の恩恵が大きいからだ。
左右一体型は、安価な製品が多いという価格優位性はあるが、汗をかくと肌にあたるケーブルやネックバンドに不快感が生じることに加え、収納面の手間が有線イヤホンとあまり変わらない。
筆者としては、完全ワイヤレスイヤホンを強くオススメする。
製品の比較検討
筆者が機能要件から候補としていたのは、以下の3つだ。
- NOTHING ear (1)
- Apple AirPods Pro
- SONY WF-1000XM4
視聴の段階では機能要件のうち判断できる部分は限られるが、結果は以下となった。
- Apple AirPods Pro
Apple製品同士のため連携はスムーズで、接続時の画面ポップアップは接続完了が把握でき便利だ。 ノイズキャンセリングは強すぎるきらいがあり、加えて特有の圧迫感をおぼえる反面、雑音が大幅に軽減されている。 外音取り込み機能はマイクを通して聞いているため、不自然さは感じつつも音声は聞き取りやすい。 装着感は非常に良く、長時間の使用も問題なさそうだ。 ネックになるのは充電端子で、Lightningケーブルではなく、USB type-Cの方が良いと感じた。 - SONY WF-1000XM4
接続時にバッテリー残量がアナウンスされるのは親切に感じる。 ノイズキャンセリングは圧迫感がなく、非常に自然な感じが好印象だった。 外音取り込み機能も比較的自然であり、総じて機能面の完成度が高い。 装着感は悪くないが、本体重量は重めで耳と本体に隙間を感じるため、落下しそうな印象がある。 充電端子はUSB type-Cであり、筆者の環境がUSB type-Cに統一されつつあるため嬉しい点だ。
非常に残念ではあるが、NOTHING ear(1)については展示確認できる場所が限られているため試すことができなかった。
また、今回の機能要件を満たすものは高級な部類の完全ワイヤレスイヤホンばかりだが、その中でもNOTHING ear(1)は価格優位性が非常に高い製品になる。
価格とデザイン性が良く、機能面も充実しているため購入に至った。
NOTHING ear (1) :製品詳細
NOTHING ear(1)のパッケージから順々に、本体や付属品とアプリなども含めて確認していく。
パッケージ
外装箱を破って開ける個性的なパッケージは、海外らしい形式と言えるだろう。
海外ではプレゼントなどを受け取った際に喜びを表現するため、包装や箱などを破り捨てると聞いたことがある。
筆者は包装も外装箱も綺麗に保管したい性格だが、1度きりの開封体験は中々に感慨深いものがあり、まるでプレゼントを開ける少年のような気持ちにさせてくれる。
外観(ケース)
イヤホンケースは比較的大きめなサイズ感だ。
個人的に完全ワイヤレスイヤホンはApple AirPodsに似たデザインが多く、個性に欠ける製品が多いと感じていたが、NOTHING ear (1)のデザインは独自性があり筆者の好みだ。
イヤホンケースのサイズは大きめだが、完全ワイヤレスイヤホンに多い丸みを帯びた形状のケースは、触れる面積が小さくなるためポケットに収納した場合の違和感が大きい。
その点、NOTHING ear (1)はポケットに入れる際に嵩張りはするが、触れる面積が大きく、服に密着するため違和感が少ない。
基本ポケットに入れて持ち運ぶ想定のため、直線で型取られたケースは好印象だ。
外観(ケース・充電周り)
充電はワイヤレス充電( QI互換 )対応だ。
筆者の環境はUSB type-Cが多く、すべてのデバイスがtype-Cになることを切望しているため、嬉しい部分だ。
安価な部類の完全ワイヤレスイヤホンはワイヤレス充電( QI互換 )に対応していないものも多いが、本製品は置くだけで充電が可能なため、余計な手間を省ける。
容易に充電できるため、充電忘れの心配もないだろう。
価格帯的に安価な部類だが、実用面の配慮が行き届いている点を評価したい。
外観(本体)
ステム部分の表側にはタッチセンサーが組み込まれており、タッチ&ジェスチャーコントロールに対応している。
内側はケース収納時に固定するための磁石や黒基調の基盤が美しい。
価格と機能面のみならず、クリアなステムのデザインに惹かれたことも購入するに至った要因の一つだ。
左右を識別する赤点は、実用性を兼ね備えたデザイン性の高さを感じている。
ステム部分のタッチ感度は良好であり、音量調整・再生停止・スキップ・ノイズキャンセリング・外音取り込み機能など、利用頻度が高い機能を長押しやタップとスライドによって調整できる。
装着感
イヤーピース側の丸みのある本体デザインは、耳甲介腔(じこうかいくう)とイヤホンの隙間を無くし密着状態に近くなる。
装着時の圧迫感や違和感を低減させる通気孔があり、装着感の良さを向上させている。
絶妙に調整された形状とサイズ感によって、耳甲介腔にはめ込むような形であり、耳珠軟骨(じじゅなんこつ)と対珠(ついじゅ)によって適度に支えられている。
イヤホン本体重量も片側4.7gと非常に軽量であり快適だ。
付属品
シリコンイヤーピースはSとLが別途付属している。
イヤーピースは外耳孔(いわゆる耳の穴)の大きさにより、標準と合わせて3つから選択できる。 さらりとした軟らかいイヤーピースは、圧迫感の少ない快適な装着感だ。
筆者は固いイヤーピースだと圧迫感が強く、負荷がかかるため、外耳孔に痛みを感じてしまうことがある。 NOTHING ear (1)のものは上記のような質感のため、長時間付けても痛くならないタイプだといえるだろう。実際数か月ほど使用しているが、これまでそういった経験はない。
また、イヤーピースのノズル径は一般的に普及しているサイズ感のため、サードパーティ製を購入して付け替えることも可能だ。
アプリ
NOTHING製品用のアプリケーションが用意されており、NOTHING ear (1)も管理できる。
シンプルな操作性で設定が容易に行える。
設定画面ではインイヤー検出(装着検知)や低レイテンシーモードの設定が選択でき、ファームウェアのアップデートもここから確認可能だ。
FIND MY EARBUDSは紛失防止機能でありイヤホンから音が出力されるため、仮に落とした場合も安心感がある。
どのように音の傾向が変化するかがグラフで表現されており好みによって選択できる。
コントロールでは、タッチ&ジェスチャーの設定が可能だ。
筆者は「バランス」もしくは「高音を強調」を選択し使用している。本製品は標準で低音域が強く出ている傾向にあり、低音強調モードではさらに強くなるため、迫力を求めるような映画などには良いだろう。高音強調モードは全体的な見通しが良くなるような印象があり、解像感が向上する。音声モードは音楽との相性が悪く、低音域が不自然に削れるが、オンライン会議やラジオなど声だけを聞き取るような場合には有効だ。
ノイズキャンセリングのみ低・高の2種類から選択ができる。
アプリは全体的に容易な操作で設定が可能であり、難しい点は何もない。
NOTHINGがユーザーの使いやすさに力を入れているのが良くわかる優れたUIだと感じる。
NOTHING ear (1) :購入体験
購入した結果だが、概ね満足のいく結果を得られている。
検討時にあげている8つの機能要件に沿って運用した結果は以下だ。
- ◎ 完全ワイヤレスイヤホン
- ○ 接続の強度
- ○ 端末の接続切替の容易さ
- ○ アクティブノイズキャンセリング(ANC)
- ○ 外音取り込み機能
- △ マイク性能
- ◎ 装着感
- ○ 運用の利便性(使用可能時間・接続コード・充電方式など)
◎ 完全ワイヤレスイヤホン
無線接続イヤホンは有線コードがあるものも存在するが、有線コードから解放されるのは非常に快適だった。カバンなどにコードが絡まる心配もなく、会議中に少し離れた場所の飲み物を取りたい時など場所にとらわれる心配もない。
○ 接続の強度
電車内や人混みの中でも活用しており、今のところ接続切れを起こすことはなく十分な接続強度が保てているといえる。
○ 端末の接続切替の容易さ
各端末のBluetooth設定画面からボタンひとつで切り替えできる点は、有線接続イヤホンに比べて非常に便利だ。一方で複数端末との同時利用可能な製品が出てきているため、本製品において複数同時に利用できないのは残念なポイントである。
○ アクティブノイズキャンセリング(ANC)
ノイズキャンセリング特有の圧迫感が少ない。 室内環境では雑音を感じることはなかったので必要十分だろう。 ノイズキャンセリングを切ると、思っている以上に雑音が存在していることを認識できるレベル感だ。
気になる点としては、電車乗車中では消し切れない雑音があった。
中〜高音域の音が該当し、鉄橋の金属的な響きの音や電車加速中の風切り音の一部と車内アナウンスなどだ。
筆者としてはさほど気にならなかった一方で、アクティブノイズキャンセリングに重きを置くユーザーには注意が必要だろう。
○ 外音取り込み機能
外音取り込み機能を使っている時に自身が話す声に若干違和感をおぼえるが、使うシーンが限られているため気にならない程度だ。 周囲の声は自然に聞くことができる。 買い物などでレジを通す際にコミュニケーションをとる瞬間があると思うが、その際にイヤホンを外す必要がないため便利に感じる。
△ マイク性能
Clear Voice Technology を採用した3 つの高精細マイクによって音声を強調させ、風切り音や周囲の雑音を除去することでクリアな通話を実現するとある。 実際、音声に関しては会議で問題になったこともなく要件を満たしているとはいえるが、筆者が聞いた限りでは音質が良いとは感じられなかった。
◎ 装着感
NOTHING ear (1) は人体工学に基づいたデザインということもあり、実際に抜群の装着感を誇る。 本体は軽量であり、装着感において特出した完成度だった。4時間ほど使用し続けても不快な点は見当たらない。
○ 運用の利便性(使用可能時間・接続コード・充電方式など)
出社直後から3時間以上の会議などが入る場合はバッテリー切れの心配があるが、現状は切れたことがない。
ケースを含めれば最大34時間の使用が可能であり、ワイヤレス充電に対応しているため指定場所に置くだけで済む。
またUSB Type-Cに対応しているため、USB Type-C to Cケーブルがあれば、Macbook Airでも充電が可能だ。
総評
Nothing ear (1)は、価格に対しての機能やデザインが最も魅力的な製品だった。 価格は1万円台と手の届きやすい価格であり、同価格帯と比較しても機能面が充実した万能に使える1台となるだろう。 上位価格帯の製品を見れば、使用可能時間やノイズキャンセリングの強さなど見劣りする部分が発生する一方で、このイヤホンを購入することで自身が何を求めていたのかが、より鮮明に見えてくる側面もある。 はじめて完全ワイヤレスイヤホンを購入するユーザーに、間違いなくオススメできる1台だ。
※製品画像の一部は公式サイトより引用