昨今のスイーツは面白い。
基本の形はあるもののパティシエごとに異なるアプローチが活きた、オリジナリティあふれる商品が店頭に陳列されている。中でも筆者が注目しているのは、その見た目の美しさもさることながら細部へのこだわりによって、まるで食べるアート作品であるかのようなケーキだ。
特にクリスマスケーキはその傾向が強く、1年の中で最もケーキが販売されるシーズンという事もあってか、様々な工夫を凝らしたケーキに出会うことができるだろう。
今回は”日本美”のミュージアムホテル「ホテル雅叙園東京」でクリスマスケーキの試食会が行われるということなので、お邪魔してきた。
クリスマスケーキ試食会でお邪魔したホテル雅叙園東京(旧:目黒雅叙園)
東京都目黒区に佇むホテル雅叙園東京は、その絢爛豪華な様から「昭和の竜宮城」とも称され、2500点以上の日本画や工芸品に彩られた創業90年以上の歴史を誇る伝統的なホテルだ。客室や料理と言った随所で日本の美を感じることができ、特に極彩色の木彫り板が続く回廊はまさに圧巻。単純なホテルというよりは、宿泊可能な美術館と言った方がわかりやすいだろうか。
そうしたジャポニズムに溢れたホテルでクリスマスケーキというとイメージがつきにくい所ではあるが、ホテル雅叙園東京では和の要素を取り入れた本格的な”クリスマスケーキ”をいただくことが出来る。
そのこだわりの強さは「(今回発表したクリスマスケーキの飾りについて)ショートケーキに飾られているサンタと柊以外のトッピングは、全て食べられる手作りのもの」というペストリー長 生野氏の発言からも伺え、美しさだけではなく味にも期待が高まる。
それでは、ホテル雅叙園東京のパティシエ陣が制作した珠玉の逸品を紹介していこう。
今回試食した2023年限定の新作4種
今回試食したのは2023年限定販売のクリスマスケーキ4種だ。
抹茶かのこ
まずは「抹茶かのこ」。こちらは和菓子の「鹿の子」をケーキに落とし込んだものだろう。名前の通りに抹茶を主体に黒豆や白いんげん、栗といった鹿の子の要素を用いてケーキとしてまとめている。抹茶と黒豆のバター生地を使ったケークを土台にし、白いんげんと酒粕の餡、そしてその上に栗の羊羹を抹茶のビスキュイでサンドしたものを重ね、ホワイトチョコレートと抹茶のムースで全体を覆って作られている。
羊羹になった栗や、白いんげん・黒豆の優しい甘みと酒粕の風味を、ほろ苦い抹茶をメインにすることで甘味に偏りすぎず見事にまとめている。ホクホクの豆類やサクサクとしたビスキュイ、舌触りのなめらかな羊羹といった複数の要素をムースが包み込み、全体をクリーミーな食感に仕立てることで、和菓子の素材を多く使用しつつも確かに”ケーキ”として昇華させた一品だ。
オレンジ・ノワゼット
窓の外に見えるクリスマスの風景をチョコレートで象った切り絵細工のようなデザインが特徴的なケーキだ。土台にはヘーゼルナッツのヌガーを使用し、ザッハトルテの生地にも使われるザッハ・マッセやクレームオランジェやオレンジピールペーストで構成されたベースを、タイノリ / ジバララクテという2種類のチョコレートをそれぞれ使ったムースで包み、グラッサージュショコラでコーティングしている。
ベースの味わいは、ドライフルーツのオレンジをチョコレートでコーティングしたオランジェットに近い。が、こちらはザッハ・マッセをベースにしていることもありしっとりとした食感だ。ヘーゼルナッツを材料に作られたヌガーに加えて、少しビターな味わいの中に感じる爽やかなオレンジピールの風味が少し大人びた雰囲気を醸し出す。苦味を生かしたクリスマスケーキをぜひご堪能あれ。
フロマージュ・フィグ
新作4種類の中では一番シンプルに作られた品だという。ピーカンナッツ、グラハムクラッカー、カソナードで土台を作り、はちみつ漬けされた白いちじくのコンフィを塗っている。その上に濃厚なフロマージュ、クレームフィグを重ねている。最後にメープルシロップのナパージュで覆い作られたものだ。
フロマージュらしいスッキリとした甘さと、いちじくの濃厚な甘みを、表面に塗られた影の主役であるメープルシロップのナパージュの、ほんのりとした甘さで包むことによってケーキ全体を上品に仕上げている。途中にあるスフレフロマージュの濃厚さと土台部分のサクッとした食感の組み合わせが食べていて楽しい。
加えて白を基調としたデザインも美しく、クリスマスの時期にぴったりな商品と言えるだろう。
フレーズ・柚子
木苺の酸味と爽やかなゆずの香りが印象的な一品。パートシュクレというタルト生地を土台に、苺のコンフィチュールを塗った柚子のクレームダマンド、ビスキィフレーズで挟んだ白餡と練乳の羊羹を重ね、ムースフレーズ、木苺のグラッサージュの順に全体を覆っている。
面白いのが白餡と練乳の羊羹がケーキの層にサンドされていることだ。羊羹に感じるまろやかな甘さが木苺の酸味と柚子の爽やかさ、そのどちらも主張しすぎることなく全体を調和させているように思える。
苺と餡・餡と柚子といった相性のいいもの同士を組み合わせて試作に試作を繰り返した料理長こだわりの一品とのことで、ケーキの甘さがあまり好きではないという方も、ぜひ試していただきたい。
ホテル雅叙園東京クリスマスケーキ定番3種
ここからは毎年販売されているクリスマスケーキ定番3種類について紹介していこう。
玉手箱
ホテル雅叙園東京が「昭和の竜宮城」と謳われていたことにインスパイアされ作られたケーキ。玉手箱はチョコでできているという。一段目には鞠をモチーフにしたチョコレートやパウンドケーキなど様々な種類のスイーツが入っており、二段目にはクリスマス人気No.1の嘉山農園の苺ショートケーキがぎっしりと詰まっている。限定10台しか販売されないため、早めに予約することをオススメする。
嘉山農園の苺ショートケーキ
こちらのケーキには部屋中を包み込むほど強い香りと爽やかな酸味が特徴の嘉山農園で栽培された苺を使用している。限られた期間しか収穫できないということで、今回の試食会ではその香りを体験することはできなかった。さらに苺を際立たせるために生クリームの甘さやスポンジ生地の口どけを計算しているという。どのような味になるのか、12月を楽しみに待ちたい。
シュトーレン
クリスマスの定番スイーツの一つであるシュトーレン。生地の中にたっぷり入ったドライフルーツやアーモンドが特徴的だ。さらに生地の中央にはドイツ製の最高級ローマジパンを使用しているという。生地と中にあるローマジパンの組み合わせにどのような相乗効果が生まれるのか、非常に楽しみである。
2023年のクリスマスはホテル雅叙園東京のケーキで
ホテル雅叙園東京のクリスマスケーキはいかがだっただろうか。僭越ながら仕事であるにも関わらず、至福のひとときを過ごすことができてしまった。
見た目が艶やかなのももちろんだが、味そのもののクオリティも非常に高く、和の素材や要素と西洋のケーキがモネやゴッホの絵画のごとく見事な和洋折衷を成している。
実際の予約開始日は10月1日(日)から12月17日(日)で、12月22日(金)から25日(月)までPATISSERIE「栞杏1928」で販売される。今のうちからどの種類を購入するか考えておいても損はないだろう。
2023年のクリスマスはホテル雅叙園東京のケーキで特別な時間を過ごしてみてはいかがだろうか。
各ケーキ詳細
抹茶かのこ
料金:5,800円(税込)
サイズ:16×8cm 高さ 5.5cm
アルコール:少量
はちみつ:使用
オレンジ・ノワゼット
料金:6,000円(税込)
サイズ:15×15cm 高さ 6cm
アルコール:微量
はちみつ:使用
フロマージュ・フィグ
料金:5,800円(税込)
サイズ:直径15cm 高さ 6cm
アルコール:不使用
はちみつ:使用
フレーズ・柚子
料金:6,000円(税込)
サイズ:直径15cm 高さ 6cm
アルコール:不使用
はちみつ:使用
玉手箱【限定10台】
料金:31,000円(税込)
サイズ:14×14cm 高さ 14cm
アルコール:微量
はちみつ:使用
嘉山農園のショートケーキ
料金:4号 4,800円(税込)/ 5号 5,800円(税込)
サイズ:4号 直径 12cm 高さ 5cm
5号 直径 15cm 高さ 5cm
アルコール:不使用
シュトーレン
料金:3,500円(税込)
サイズ:320g
アルコール:少量
はちみつ:不使用