REB fes vol.00:ファン交流を主体とした新感覚のオーディオ体験イベントをレポート

電車の中に広がる人々の織り成す風景はここ15-6年で様変わりした。携帯電話や文庫本はスマートフォンに、有線イヤホンは扱いやすいワイヤレスイヤホンにとって代わり、皆一様に耳にイヤホンをはめスマートフォンを見つめている姿が広がっている。

そんな中でも筆者のように、耳からケーブルを生やしている人種も存在していることにお気づきだろうか。

このワイヤレスイヤホン全盛の時代に有線イヤホンを使用しているのは、ひとえに満足できる音を求めての事だろう。筆者の個人的な感想にはなってしまうが、いまだフルワイヤレスイヤホンで出力できる音は有線イヤホンの品質に到達していない。D/Aコンバーターの性能によるものか、それともBluetoothで飛ばす際の欠損によるものなのかは定かではないが、聞き比べた際に明確に差を感じてしまい、結局フルワイヤレス時代に移行できずにいるのが筆者である。

しかしこれだけ普及している以上、多くの人は筆者が感じているほどの差を感じていないか、あるいは劣るわけではなく、純粋な差異であり「筆者の好みではないだけ」という可能性もあるだろう。

そう、この好みという部分がオーディオの厄介な点であり、また楽しさなのだ。

今回はそんなオーディオの妙たる好みにフォーカスを当て「存分に試し、追求し、語ることで楽しもう。」という趣旨のイベント「REB fes」の記念すべき第0回にお邪魔してきた。元々ジャンルは違えどメーカー側の人間であり、かつ一人のオーディオファンでもある筆者にとっても興味深いイベントだったので、読者の皆さんにもぜひ楽しんでいただけたらと思う。

目次

REBはオーディオの楽しさを再起動(REBOOT)・再構築(REBUILD)・再生(REBORN)する新ブラント

イベントに向かう前に、まずは「REB」というブランドについて紹介させていただこう。章タイトルで上げさせていただいた通り新ブランドのため、ご存じない方もいらっしゃるかもしれないので念のためだ。

REBとは株式会社finalが立ち上げた新ブランドで、「面白いと思うことを素直に共感できるコミュニティ、従来の枠には止まらない幅広い方向性での製品開発、新しい形態でのストア、メディア」を主軸としてオーディオの楽しさを再起動(REBOOT)・再構築(REBUILD)・再生(REBORN)し、コミュニケーションから広がる「楽しい」を実現するブランドとしている。

その構成としてはfinalから販売されているDIYイヤホン「MAKEシリーズ」、そのコミュニティサイトである「MAKER’S」、また本社内に構える直営店でありワークショップの会場でもあった「final STORE」をREBという御旗のもと集約し”REBUILD”した形だ。

REB ロゴ
従来あるfinalのブランドからあえてスプリットし「REB」を立ち上げた意図や経緯については、筆者がかいつまんだ情報よりも、圧倒的熱量を持って掲載されている公式サイトのモノを読んだ方がより深く共感できるだろう。興味がある人はぜひそちらを参照してほしい。
公式サイト:https://reb-audio.com/

お待たせして申し訳ない、それでは早速会場の様子をお届けしよう。

REB fesはメーカーとユーザーが集う交流型イベント

JR川崎駅からラゾーナ川崎側に出てほど近く、final本社のビルが見えてくる。ここの5階が今回のイベント「REB fes vol.00」の会場だ。入口足元にはfinal STOREの文字があるが、もしかするとここもいずれREB STOREに記載が変わるのだろうか。

final本社の入り口
入口にかけられたfinal印の暖簾がどことなく和の雰囲気を感じさせる。

5階に上がると、多くのイヤホンやヘッドホンをはじめとしたオーディオ機器がずらりと並んでおり、来場者が思い思いに製品を眺めていた。

REB fes vol.00 の様子
会場の様子。手前に見えるのが測定中古販売のカウンター兼ショーケース、奥に見えるのが各社の出展ブースと「MAKER’S DAY」のエリアだ。

この中でまず絶対に見落としたくないものが、REB ORIGINAL PRODUCTだろう。

ユーザーの声と開発担当者の熱意が生んだREBプロダクトプロトタイプ

REB ORIGINAL PRODUCT(REB プロダクトプロトタイプ)

現行のMAKEシリーズの良さを踏襲し、カスタムIEM(イン・イヤー・モニター)化したものが今回展示されていたREB ORIGINAL PRODUCT (REB プロダクトプロトタイプ)だ。

通常のカスタムIMEでは、耳型を採取してオーダーメイドイヤホンを作る性質上、他者と共有することが難しい。こだわり抜いた末のカスタムIEMという選択であり、一種の到達点だからこそ実際に音を聞いてもらい、その良さを「他の人にも共有し、共感してもらいたい」といった気持ちもあるだろう。

そこでREB ORIGINAL PRODUCT では、CORE UNITとシェルを分離することで、他者と共有・共感できる仕組みを実現している。さらにCORE UNIT自体は、MEKEシリーズのように音質調整も可能で、まさにMAKEシリーズに連なるカスタムIEMといった仕上がりになっている。

MAKEシリーズの良さについては後述する「MAKER’S DAY」の項で触れているのでそちらを参照してほしい。

REB ORIGINAL PRODUCT
すでに春のヘッドフォン祭 2023で展示されていたため、見たことがある方も居るかもしれないが、当日はREBの旗艦といえるプロダクトとあってか人だかりができていた。
ユニバーサルシェル装着状態、CORE UNIT単体、カスタムIEMシェル
左からユニバーサルシェル装着状態、CORE UNIT単体、カスタムIEMシェル装着状態だ。

会場に集うオーディオ関連メーカー

我々が事前に入手した概要によると「REB fesでは会社の垣根を超えて自由な組み合わせで試聴でき、音を自分で作る・調整することを体験でき、製品を通してコミュニケーションが取れるイベント」となっている。

珍しいのは「会社の垣根を越えて」という部分で、通常メーカーの主催する自社イベントというのは主として自社製品が展示され、他社製品は極力排除される傾向にある。しかしREB fesにおいては他社製品もメインの一つなのだ。

そのことがわかりやすい取材時のエピソードとして「今回出展してる社外のメーカーは全て、REBのスタッフが大ファンが故に、熱烈オファーをして出展してもらった」のだとか。 その熱意が結実している「REB fes」の各社ブースは、紛うことなきメインコンテンツと言えよう。

final ブース・DITA ブース

今回のイベントはあくまでもREBの主催ではあるが、その母体となっている(あるいはいた)のがfinalだ。 イヤホンのいちブランドとしてはご存じだと思うが、会社としてのfinalをみるとなかなか凄まじいものがある。 彼らは技術的な目標を「現実と体験が区別できない世界」とし「技術的な裏付けのある質の高さが、再生音のクオリティとなり音楽体験に大きな影響を与える」という思想のもと、基礎研究開発・商品企画・デザイン・設計・ 製造・販売まで全てのプロセスを自社で行なっている。

ユーザーとしては分かりにくいとは思うが、基礎研究からというのは相当な投資と労力が必要なことで、実のところ多くの会社は共同開発であったり、そもそも行っていなかったりする。「凄まじい」という表現は筆者の嘘偽りない本音だ。

今回展示ブースでは、そんな彼らが開発したハイエンドイヤホン「A8000」や、A8000の開発時に確立したfinal独自の評価法を基に設計されたイヤホン「A5000」、さらにハイエンドヘッドホン「D8000」が視聴可能だ。

左からA8000、A5000、D8000。
それぞれが特徴的な仕様の製品であり、トゥルーベリリウム振動板・f-CORE DUドライバー・AFDS平面磁界型など、特殊材質による特出したレスポンスや、高音の抜けがよく明瞭で鮮やかな音色、AFDS平面磁界型の高解像度かつ優れた音場感といった様々な音楽体験が得られる製品だ。

DITA Audioは「最高の体験はこだわり抜いた製品から生まれる」という信念の元、美しく、そして洗練された製品づくりを追求している会社だ。今回イベントに用意された視聴可能なイヤホンはDITA10周年を記念した「PERPETUA」であり、フラグシップモデル(約43万円)となる。

PERPETUA
こちらがそのPERPETUA。イヤホンでありながら窮屈さを感じさせない広い音場感に高い解像度は、イヤホンの窮屈な印象を覆す音楽体験を得られるだろう。

気軽に購入できる金額感ではない製品が多いが、それもそのはず。フラグシップ製品は、研究・開発・チューニングから成るメーカーが理想とする音の追求結果であり一種の集大成といっても過言ではないだろう。
普段のオーディオ体験では味わえない音の体験が生まれるはずなので、この機会にぜひ試してほしい。

Analog Squared Paper ブース

Analog Squared Paperは鈴鹿市の工房にて、真空管等のアナログを軸にした音響プロダクトをオーダーメイドで生産している会社だ。このオーダーメイドというのが大きなポイントで、感覚が大事なオーディオで自身の理想を既製品のみで実現することは難しい。しかしオーダーメイドだからこそ叶えられるものもあるのだ。

Analog Squared Paper ブースの様子

一般ユーザーの多くは、真空管アンプで音楽を聴く体験は少ないと思うが、真空管アンプならではの滑らかで温かみのある音は、長時間聴いていたくなるような「柔らかな音に包まれる体験」が得られる。今回のイベントでは据え置きアンプからポータブルアンプの3種類の視聴可能な展示が行われているので、聞いたことがないという方は必聴だろう。

Analog Squared Paper ブースの様子2

Sound Labo AIMS ブース

Sound Labo AIMSは秋葉原を拠点とするポータブルオーディオショップでもあるが、カレー屋でもあり、「カレー×オーディオ」の斬新なスタイルとなっている。

なぜカレーなのかは筆者の想像でしかないが、確かにオーディオとカレーは近しい部分があるといえる。掛け合わせるスパイスや材料で味の変化が起こりうるカレーは、イヤーピースやケーブルなどはもちろん、再生機器との掛け合わせでも音の聞こえ方が変わるオーディオと、近い存在といえるだろう。どちらもこだわる程に沼へと誘われる魔性のジャンルだ。

Sound Labo AIMS ブースの様子

今回の展示では視聴可能なケーブルがいくつか用意されており、ケーブルも販売されている。
販売されているケーブルの多くは一点物のため、興味があるユーザーは直ぐにでも足を運ぶことをオススメしたい。

Sound Labo AIMS ブースの様子2

多くの”MAKER”達が集う同時開催イベント「MAKER’S DAY」

記事内でもたびたび登場していた「MAKEシリーズ」ではあるが、ここで改めて解説させていただこう。

シリーズ最大の特徴は音を調整するフィルターを交換することで、モデルによって最大847通り以上の音を作ることが可能になっており、自分の好みの音を自らの手でチューニングし形作ることができる点だ。加えてコミュニティサイト「MAKER’S」やSNS・リアルコミュニティを通して、そのチューニングを他者と共有し、語らいあうことも醍醐味の一つだろう。
REBというブランドはこのMAKEシリーズの登場と切っても切れない関係にあり、ある種の原点と言っていいはずだ。

「MAKER’S DAY」はそんなMAKEシリーズのユーザーが集うイベント。会場では用意された自由に使える各種の交換用フィルターを組み合わせ、時に試聴し、時に相談しながら自分の好みの音を作り上げていく”MAKER”達の姿を見ることができた。

MAKER'S DAYの様子
MAKERたちのチューニングに合わせた試聴機
また会場にはMAKERたちがコミュニティサイトで公開しているレシピに合わせチューニングされたMAKEシリーズの姿も。

会場ではMAKEの新たなチューニングパーツやオリジナルグッズの販売も

各種イベントにおいて、あったら見逃してはいけないのが物販だ。たいていの場合その場でしか買えない物やお値段の事が多い。ここではREB fes vol.00の注目商品を紹介しよう。

MAKE Nozzle TYPE E

現在販売されているMAKE4専用のノズルパーツ。作りとしてはMAKE4に付属しているものと同様で、その単品販売版となる。
MAKE4ではノズルパーツ内に存在するフィルターを付け替える事でも音の変化を楽しむことができるが、この製品を購入することで既にチューニング済みのノズルを保持したまま、別のチューニングを試すことができるようになるという代物だ。紛失時のアフターパーツとしてもよし、複数購入して気分によって付け替えるのも面白いだろう。

MAKE4の内部構造
会場に展示されていたMAKE4の内部構造。この画像内で最も左のパーツが今回単品販売されたノズルにあたり、この内部に仕込んだフィルターと画像右のダイヤルを調整することで、チューニングを楽しめる構造になっている。

また会場では同じくMAKE4用のノズルではあるものの、TWS(フルワイヤレスイヤホン)用のイヤーピースが取り付け可能になる「MAKE Nozzle TWS」も限定先行販売という形で販売が行われていた。また販売こそされていないものの、今後発売予定だという「Brass」「Orifice」などのバージョンも見ることができた。

MAKE4の別売ノズルを取り付けたサンプル
左から順にTWS、Brass、Orifice。

REB測定中古

こちらではREBでの新サービス「REB測定中古」を先行して体験できる。REB測定中古とは、オーディオで中古品を購入する際に一番気になる音の部分を高精度な測定器で測定し、イヤホン・ヘッドホンの出音の音質的不具合が無いことをREBが確認し販売するというサービス。

今回は”先行して”という事もあってか販売のみだが、実際にサービスとして開示には買取も実施するようだ。まだ買取を行っていないからだろう、会場では主にfinalの製品が販売されている様子だった。

REB測定中古の販売エリア
一見中古品が販売されているとは思えないお洒落なショーケースに包まれている。一見しただけでもなかなかお買い得な製品が多かったので、イベントに行く際は見逃しに注意してほしい。

REBブランド オリジナルグッズ

物販と言えばやはりオリジナルグッズは鉄板だろう。REBのロゴをあしらったオリジナルデザインのTシャツやマグカップ、グラスが販売されていた。元のロゴがシンプルな事もあり日常生活でも違和感のないデザインだ。

REB fes vol.00 の物販

イヤピガチャ

もう一つ鉄板どころを紹介しよう。と言ってもこちらは物販の、というよりは”finalの”だが。 final STOREでも行われていたイヤピガチャがここでも登場しており、タイトル通りイヤーピースはもちろん、なんと最高賞ではMAKE4が当たるというのだから挑戦する価値はあるだろう。

REB fes vol.00 会場のイヤピガチャ
ちなみに会場に向かった編集部メンバーは全員トライしたのだが、見事に全員イヤーピースだったので安心してほしい。まだMAKE4は会場であなたの事を待っているはずだ。
REB fes vol.00 会場 イヤピガチャの景品
景品の一覧はこちら。価格は1回1,000円と一見ガチャガチャにしては高く感じるかもしれないが、最低保証と言えるイヤーピースの当たるイヤピ賞でさえ「TYPE-E 1セット(5サイズ)」もしくは「TYPE-E TWS 1セット(3サイズ)」から選べることを考えるとむしろ安い。

会社、そしてメーカーとユーザーの垣根をも超えるREB fes

各ブースで一様に言えるのは「音楽体験に重きを置いている」ということだ。 各社がユーザーの実態に合わせた楽しみ方に寄り添い、他社との組み合わせ視聴を実現するというユーザーフレンドリーな姿勢や、オーディオに対しての熱量がことあるごとに感じられる。

他イベントとは”一味違った”視聴体験がここにある。

加えて印象的だったのは、ユーザーとメーカー、そしてユーザー同士、メーカー同士といった双方向のコミュニケーションが各所でなされていたことだ。そこには会社や立場といった垣根はなく、ただただ各々の「好き」について語り合う人々が集うのみだ。こうしたところからやがて”夢”のプロダクトが生まれ出るとすれば、それこそまさに新しいオーディオの「楽しみ」になるだろう。

REB fesは今後7月に大阪開催、その後は名古屋エリア、仙台エリア、福岡エリア、北海道エリアなどを中心に、全国各地で開催することを検討、とのことなので、皆様のお近くのエリアで開催される際にはぜひ足を運んでいただければと思う。

繰り返しにはなるがメーカーが、自らメーカーの枠を超えて業界を盛り上げようという動きは中々珍しいものだ。筆者自身もいちオーディオファンとして「REB」がfinalの別ブランドで終わらず、大きなコミュニティとして盛り上がっていくことを楽しみに、今後も動向を見守っていきたい。

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