『名前』と生きるということ -名前とペンが描く、人生の輪郭 

両親からもらった、最初の贈り物、『名前』 

この世に生まれた瞬間、当たり前のように与えられる――『名前』。 
けれど、それは本当に“自分のもの”なのだろうか。 

多くの人は、生まれて間もないうちに両親から「名」を授かる。 
そこには、いくつもの思いが込められている。 
叶わなかった夢を託すこともあれば、 
乳飲み子の表情から閃いた一文字を選ぶこともある。 
「健やかに育て」という願い、祈り――。 
父と母の“想い”が文字に宿り、子に手渡されるのだ。 

呼ばれる声の中で、人は“自分”になっていく

そんな、ありがたいはずの『名前』も、
ある時期、本人にとっては単なる「識別符号」のように感じられることがある。
自分の名前なのに、自分で使う機会が驚くほど少ない。
そう――自ら声に出して名乗る場面が、ほとんどないからかもしれない。

学生時代を振り返ってみると、
自分の『名前』はいつも他人の口から発せられていた。

先生、友達、親、兄弟、親戚、近所のおじさん、おばさん……。
自分の口から発するのは、せいぜいクラス替えの後の「自己紹介セレモニー」くらい。
あとはずっと、誰かの声で呼ばれて、
自分の『名前』など、意識することはほとんどなかった。

人は、誰かに『名前』を呼ばれながら生きていく。
その声の響きに、温度や感情、関係性が宿る。
叱る声、励ます声、懐かしく呼ぶ声――。

呼ばれるたびに、少しずつ“自分”という輪郭ができていくのかもしれない。
『名前』が、ただの記号ではなく、
人と人とのあいだに生まれた「記憶」に変っていく。

「名前欄」で出会った、自分という存在

思えば、自分の『名前』と、もっとも向き合っていたのは、
テストの回答用紙に書く、あの「名前欄」だったのかもしれない。

多くの人が、この瞬間にだけ、ほんの少し自分の名前を意識する。
これから何百回、何千回、何万回と書き続けていく“自分の『名前』”。

「どうすれば、もう少し上手く書けるだろう?」
そんなことを思いながら、鉛筆を握っていたあの時間。
あれが、もしかすると“自分の『名前』”と初めて真っすぐに対峙した瞬間だったのだろう。

『名前』を書くたびに、アイデンティティーが確立されていく。

父母が託した“想い”の重さを、指先で感じるようになった。

署名のこめる想いと、一本のペン

その重さを知ってからは、不思議なことに
自分の『名前』をぞんざいに書くことはなくなった。
単なる「識別符号」ではなくなったのだ。

仲間と過ごした記録、高校の卒業アルバムの「寄せ書き」には、
感謝の言葉とともに刻み込んだ。

まだ見ぬエリアへの距離を、一気に縮めてくれた最初の車。
購入契約書に書いた文字には、喜びが踊っていた。

押し寄せる重圧に立ち向かう勇気を込めた、履歴書。
婚姻届、息子の出生届、マンション購入の書類・・・

人生の節目ごとに、自分の『名前』を書いてきた。
ところが、どうにも納得したことがない。

文字が形どらない、筆が走らない。
軽いーーのだ。

間に合わせで用意されたペンでは、文字に魂が宿ってくれない。

ペンひとつで、文字の重みが変わる

「弘法は筆を選ばず」—そうは言うが、自分は弘法大師 空海ではない。
むしろ、筆(ペン)を選ぶからこそ、想いが形になることもある。

そんなことが、やたらと気になり始めた時、
偶然、手に入した一本のペン。

CROSSボールペン「カレイ」。

モンブラン、ペリカン、ウォーターマン、シェーファー、パーカー・・・。
世界には名だたる筆記具ブランドが数多くある。

なぜだか、手になじんだのがこの一本だった。
重さ、金属の冷たさ、インクが紙に吸い込まれるザラツキ—。
ペン先が紙を滑る音が、まるで呼吸のようにリズムを刻む。

このペンを握ると、不思議と背筋が伸びる。
“名前を書く”という行為に、心が整う。
なにがどうじゃない、手になじんでいるのだ。

書くたびに、名は“記憶”になる

ただし、
このペンで『名前』を書いたからといって、
魔法のように、文字が上手くなるわけではない。

けれど、納得がいく。
自分の『名前』にきちんと応えているという、実感がある。

人は、だれかに『名前』を呼ばれながら生きるものだ。
その声に響きに、温度や感情、関係性が宿る。
叱責、激励、応援・・・、一直線に自分へ向かってくる呼びかけ。

そのたびに少しずつ、“自分”という輪郭ができてきた。

そして、自ら『名前』掲げて、名乗りを上げるとき、
そこに込めるのは、自信と、責任と、ほんの少しの誇らしさ。
そのときに使うペンは、手になじむ一本でありたい。

重さも、書き味も、自分らしく。

生きるということは、時代の記憶に“名”を刻むことだから。

『名前』を書くという行為は、
父母から受け取った“想い”を知り、
今の自分を確認する作業でもある。

お気に入りのペン、CROSS「カレイ」で名前を書く。

—たったそれだけのことが、
今日も静かに、わたしの人生を振り返らせてくれる。

CROSS

Calais(カレイ)


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