ROGブランド 20周年の節目に、責任者が「プレイヤーファースト」を“思想”ではなく“開発手順”として書き残した。ASUS Pressroomに掲載されたKris Huang 氏(ROG Committee Head)の文章は、視察・インタビュー・オンライン調査・グローバル環境でのテストから始まり、性能・エルゴノミクス・見た目・使い勝手の判断を揃えていく流れを示している。最初に「どう決めるか」を置く書き方だ。
この文章が強いのは、プレイヤーファーストを「理念」として言い切るのではなく、「まず見て、聞いて、確かめる」という順番で工程に落としているところにある。性能の話に入る前に、判断の起点を動かさないための段取りが並んでいる。
プレイヤーファーストを掲げること自体は難しくない。難しいのは、開発の途中で必ず立ち上がってくるメーカーとしての正義と、同じテーブルで折り合いをつけることだ。コスト、品質管理、量産性、納期。どれも正しい。どれかを上げると、どれかが下がる。だから多くは“無難”へ寄る。
ここでROGが狙っているのは、無難に寄る前に判断が散らないよう、起点と手順を先に固定しておくことだ。プレイヤー理解に立ち返れる足場を、工程の中に作っておく。
共感は「気持ち」ではなく、前提を揃えるための作業になる
調査を増やせば答えは割れる。地域で違う。プレイスタイルで違う。好みが違う。情報が割れれば割れるほど判断は遅くなり、最後は納期やコストに引っ張られやすくなる。ここが、プレイヤーファーストが掛け声で終わりやすい現実だ。
だから最初に置かれているのが、観測のメニューである。現場を見る。話を聞く。オンラインで傾向を掴む。グローバル環境で試す。やっていることは単純で、「想像で決めない」を工程にしている。観測の入口が先に決まっていれば、途中で都合が前に出てきても、「最初に何を見たか」「何を確かめたか」に戻って議論できる。
性能だけを正義にすると、使用者にしか感じ取れない手や耳や熱の違和感が議題から落ちる。逆に、違和感まで拾うと、今度は重量・コスト・量産性と衝突する。ROGがやっているのは、その衝突を「測って」「縛って」「成立させる」側に倒すことだ。
例えば剛性を上げれば重くなりやすく、熱を抑えれば静かさや設計自由度とぶつかる。どちらかを諦めるのではなく、「どこまでなら両立できるか」を数値と検証で詰めにいく──その姿勢が、ここから先で具体に現れてくる。
なぜROG Zephyrusは“違和感”をKPIで縛るのか
具体的に挙げられたのは、ROG Zephyrusだ。痛点として「筐体のたわみ」「共振」「キーボードのホットスポット(熱)」が挙げられ、剛性を+50%、ホットスポットを40℃以下に抑える、といったKPIが置かれる。試験も具体で、三点曲げ、無響室、サーマルマトリクス、ブラインドテストが並び、結果として満足度が78%増加したとされている。

ここでKPIが縛っているのは、CPUやGPUの数字ではない。プレイ中に積もる“外側の違和感”だ。
たわみは、手元の感触や姿勢の小さなズレを生む。共振は、耳と手にノイズを残す。熱は、指先を逃がしフォームを崩す。勝敗を一撃で変える類ではないが、集中を削るには十分な要素だ。だから性能の話と別に、違和感をKPIに落として、まず逃げ道を塞いでいる。
さらに踏み込むのが加工法である。Kris Huang 氏の説明には、プレス成形アルミとCNC加工のアルミインゴットの比較が出てくる。変形の最小化、音響、放熱の改善のために、加工法まで意思決定の対象に入れている。
CNC加工は形状自由度と精度を取りにいける一方で、加工時間とコスト、歩留まりの難度が上がりやすい。量産で採用するほど、設計だけでなく製造・検査まで含めて“成立の条件”が厳しくなる。
それでも触っているのは、見た目の贅沢のためではない。「たわみ/鳴り/熱」をKPIで縛る以上、設計だけでなく製造の前提まで含めて成立させないと数字が守れないからだ。
剛性を上げれば重量が増えやすい。熱を下げればノイズや設計自由度が削られやすい。共振を抑えれば素材・接合・内部構造に踏み込む必要が出る。KPIを置いた瞬間、全部がぶつかる。そのぶつかり方を、試験と工程の組み合わせで処理していく——ROG Zephyrusのパートは、その一連が省略されずに並んでいる。
(なお、ASUS側の別リリースでもROG Zephyrusの筐体に「CNC aluminum」「CNC-milled aluminum chassis」といった表現が繰り返され、量産前提の採用であることが示されている。)
ROG Flow Z13が示す“成立条件”
ASUS Pressroomの記事内では、ROG Flow Z13について多くは語られていない。けれど、置き方が象徴的だ。
薄型筐体に高性能部品を収めるための両面マザーボード設計を採り、部品配置や熱設計、製造面での工夫が必要だった——という趣旨で触れられている。

ここで見えてくるのは、「大胆なアイデア」そのものではなく、成立条件のほうだ。作れるかではなく、現実の制約の中で回るか。
ROG Zephyrusが“違和感をKPIで縛り、試験で詰め、必要なら製造の前提に踏み込む”タイプの話だとすれば、ROG Flow Z13は“フォーム側の制約が厳しい状態で成立させる”タイプの話になる。同じ起点(プレイヤー理解)から出発しつつ、制約に応じて解き方を変えている。
プレイヤーファーストを「戻れるルール」にしたブランドは強い
ここまでを通して見えてくるのは、プレイヤーファーストを“思想”で終わらせない設計だ。プレイヤー理解から始め、判断軸を増やし、KPIで縛り、試作と試験で詰め、必要なら製造の前提まで含めて成立させる。こうして初めて、プレイヤーファーストは「いつでも戻れるルール」になる。
20周年を迎えてなお、ROGは“速い”だけで勝負しない。たわみ、鳴り、熱——ゲーマーの集中を削る原因を開発工程で潰し切る。その姿勢がシリーズをまたいで守られるなら、ROGは性能競争の勝者というより「長く付き合いたい道具」を作るブランドとして、より確固たるものとなるだろう。
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