人間、一度環境にこだわり出すと色々と欲が出てくるものである。 遡ること3年前、コロナ禍の影響もあり在宅勤務がメインになった筆者は、快適なデスク環境を模索し始めた。机や椅子にはじまり、モニターやキーボード、マウスなどの周辺機器、はては接続性を考えてモニターやUSBの切り替えスイッチなど、取り揃えたものは多岐にわたる…
流石に数年経過したこともあり、ある程度満足のいく環境が整った自宅の仕事部屋だが、最近にわかに欲しくなりつつあるものがある。それはデスクトップオーディオ機器だ。
オフィスで仕事をしていた頃は、周囲にある程度の喧騒があり特に気にしていなかったのだが、自宅になってからは基本的に自分しかいないため、周囲が若干静かすぎると感じる瞬間が多い。自身がある程度“ガヤガヤ”している環境の方が集中できる性質なこともあり、作業時にBGMをかけるようになるまでそう時間はかからなかった。
しかし、そうなると次に気になるのはスピーカーの音質である。
筆者は元々、比較的イヤホンにはこだわっていたものの、スピーカーにはそこまでこだわっていなかった。(主に音楽を聴くタイミングは電車での移動中が多く、自宅で腰を据えて聴くことがほとんど無かったため。)しかし環境が変わり下手すると日に10時間以上聞いている日が出てくるとなると、だんだんと流れている音にもこだわりたくなってくる。
とはいえスピーカーに詳しくない身としては、どうせなら一挙に製品を視聴し、好みの音を見つけてから購入したいところ。ついでに言えば、せっかくなら最新製品にも触れておきたい。
そんな筆者が趣味と実益を兼ねて訪れたのが、今回ご紹介するイベント「OTOTEN2023」である。
国内最大級のオーディオイベント「OTOTEN2023」
OTOTENは一般社団法人日本オーディオ協会が主催する国内最大級のオーディオとホームシアターの祭典であり、毎年開催されている。あいにくコロナ禍ではオンライン開催となっていたが、昨年からリアル開催が復活し、今年も会場で実際に製品の音を聴くことができるようになっている。
イベントでは、オーディオ・ホームシアターに加え、カーオーディオ、イヤホン・ヘッドホン、マイクなどを取り扱う企業が出展し、様々な用途やシーンの提案を行なっており、参加企業が提案する音の素晴らしさを来場者に直接体感してもらうことで、「豊かなオーディオ文化を広め、楽しさと人間性にあふれた社会を創造する」という協会のビジョンを推進するという。
多くの来場者とオーディオ機器の集う東京国際フォーラム
それでは早速会場の様子をお届けしよう。
まず会場である東京国際フォーラムを訪れた際に驚かされるのは、その盛況具合だろう。筆者は開場の10分ほど前に向かったのだが、すでに入場待ちの列がかなり長く伸びていた。今回が71回目ということもあり、それだけ参加者の認知度が高いのだろう。
受付には大きな入場門が設置されており、メインビジュアルに使用されている博(ひろ)氏のイラストが目を惹くカラフルなデザインになっている。来場者はこの門を潜って受付へ進み、各ブースを巡っていくことになる。
またOTOTENの面白いところは、一般的な一つのホールで行う展示会とは異なり、複数の階・部屋に分かれて展示を行なっている点だ。 これはおそらく音という展示品の都合上によるもので、幕張メッセやビッグサイトのような開けた空間でブースを構えた場合、それぞれのブースで出した音が混ざり合い“喧嘩”してしまうという弊害がある。その点、国際フォーラムのような複数の会議部屋を持つ会場であれば、メーカーごとに出店スペースを部屋として切り分けることで回避できるというわけだ。
今回のOTOTEN2023では受付+小ブースのあるB1、加えて4・5・6階に各メーカーのブースがあり、7階にはイベントステージ、という構成になっていた。
さてここで思い出していただきたいのは、筆者は今回デスクトップオーディオ機器を見に来たということである。 魅力的な製品が多く目移りしてしまいそうではあるが、本記事ではそうした「ニアフィールド」を前提とした製品に重点を置いて「筆者的な見どころ」という形で、ブースや製品をピックアップし紹介させていただこうと思う。
株式会社エミライ(FiiO)ブース
ある種筆者の今回の目的に一番近い展示が行われていたのが、エミライ(FiiO)のブースだ。ブース内では、リビングとデスク周りを模した展示が行われており、いずれも先日発表されたデスクトップオーディオデバイス「FiiO R7」をベースとしたオーディオ環境が組まれていた。
FiiO R7
DAC/ヘッドホンアンプ/ネットワークプレーヤーを一台にまとめたのがこの製品。特徴的なのはその汎用性、フォローする規格や用途の広さであり、この一台とイヤホンやスピーカーなどの出力装置さえあれば、ひとまず全ての音楽環境が揃うと言えるだろう。極論PCすらなくても成立してしまうのがこの製品の面白いところで、展示のように「リビングでゆったり音楽を聴くための母艦としても良し、デスクでPCの音をアップグレードするも良し」とかなりマルチな製品だ。
FiiO KB1
もう一点オーディオ機器からは若干外れるものの、取り上げておきたいのがこちらのUSBキーパッドだ。PCやオーディオ機器と接続する事で、再生/一時停止、音量調整やミュートといった操作をより直感的に行う事ができる。特にWindowsにおいては音量を直接操作できるショートカットキーなどが存在しないため、直感的に操作できるようになるのは有り難い。
KRIPTONブース
ここでは3種類のニアオーディオに適したスピーカーを体験することができる。小型ながら高出力かつ高音質であり、ピュアオーディオのノウハウをデスクトップオーディオに凝縮した製品と言えるだろう。その本格的な音をある種手軽に導入できるということもあり、筆者個人的としても注目度は高い。
KS-11G
かつてPC用スピーカーとしてはあまりにも“ガチ”な音と設計で話題となった「KS-1HQM」の後継シリーズ。その遺伝子は特徴の一つでもある底面のインシュレーターからも感じる事ができる。 今回展示されている3製品の中では最も安価なモデルでありながら、近年普及が進んでいる高音質コーデックでもあるaptX Adaptive(48kHz/24bit)に対応し、ワイヤレスでハイレゾ相当のサウンドが楽しめるようになった。
KS-55HG
こちらも同じくaptX Adaptiveに対応し、加えてLDACにも対応。これにより現状最も高音質なコーデックに対応したBluetoothスピーカーとなった。またKS-11G / KS-33Gとの違いとしてツイーターを別途搭載。ハイレゾ用に開発した超高域60kHzを再生可能な30mmリングダイアフラム・ツイーターにより繊細なハイレゾサウンドを再現するという。
FOSTEXブース
FOSTEXはDTMユーザーも愛用者の多いスピーカーメーカーで弊社CEOも自宅で使用している。筆者自身も何度かその音を耳にしていることもあり、愛着があるメーカーだ。
特にPM0.3は低価格ながら、モニタリングにも耐えうるサウンドとして人気を集め、今回のイベント会場ではその後継製品といえる近日発売予定の「PM0.3BD」が展示されていた。
PM0.3BD
前身であるPM0.3に、USB DAC機能とBluetoothへの対応がなされ、さらに音質も向上している。もともとモニターライクな使用方法で人気を博していたが、MUSIC/VOICEモードの切り替え機能を搭載したことにより、声を中心としたモニターも可能となったのもポイント。またより高い臨場感や迫力を求めるユーザー向けに、サブウーファーを増設できる専用端子を装備している。
RMEブース
デスクトップ用のオーディオ機器を見ていくのであれば、セットでDACもチェックしておくべきだろう。最近のアクティブスピーカーにはDACを内蔵している製品も多いが、ことデスクトップオーディオにおいてはスピーカーだけでなく、ヘッドホン・イヤホンを併せて使用するシーンも多い。そんな筆者のようなユーザーはRMEブースで体験できる下記の製品をおすすめしたい。
ADI-2/4 Pro SE
この製品は、ADI-2 Pro FS R Black Editionの4.4mmバランス接続対応版と言えるだろう。SteadyClock FSによりジッターを極限まで抑制した、原音に忠実なAD/DAコンバート。これにより実現した透明無垢と称されるほどの精度の高いモニタリングサウンドが特徴だ。またスピーカーのセットアップに近い音像でヘッドフォン・モニタリングを実現するバイノーラル・クロスフィード機能があるため、普段はアクティブスピーカー、夜間など音量が気になる際はヘッドフォンといった使い分けに最適な機種といえるだろう。
AUDIO BRAINS(beyerdynamic|POWERSOFT)ブース
OTOTENではスピーカー関連製品が展示の多くを占めるが、イヤホン・ヘッドホンも忘れてはならないと訴えかけるかのようなAUDIO BRAINSのブース。今回のイベントでは専門性の高い放送用を除いたほとんどのラインナップが用意され、14製品の視聴が可能となっている。
beyerdynamic(ベイヤーダイナミック)のヘッドフォンたち
近年では在宅ワークなどの影響もあり、おうち時間の活用という視点から音楽鑑賞の環境見直しや新規導入といった機会も増えつつあるように思う。 スピーカーでは設置環境や周辺環境の配慮等々さまざまな問題があるが、その点、イヤホン・ヘッドホンであれば狭小住宅や住宅間の狭い地域が多い日本でも安心して没頭できるだろう。 世界中の音楽制作・放送業界といった現場を支えているメーカーでもあり、ぜひ一度視聴をおすすめしたい。
POWERSOFT DRIVING HUMAN AUDIO EXPERIENCE
もう一点変わり種を紹介させていただこう。これは製品というよりシステムに近いのだが、音に合わせて振動を感じることができる小型ユニットが展示されており、映画館のMX4Dを彷彿とさせる。メーカーの方曰く「体で感じるサブウーファー」だそうだ。 このユニットを家具などに組み込むことにより、自宅でも映画館のような映画体験が実現できるのではないかという期待が膨らむ。現状はコンシューマー向けへの販売は想定していないとのことだが、このコンパクトさは期待せざるをえないだろう。音を聴くだけの時代に終止符を打つ、近未来像が垣間見える体験をすることができた。
SONYブース
SONYといえばウォークマンや、モニターヘッドフォンのイメージが強いと思うが、今回ブースでは「360 Reality Audio」の音源を作成する「360 WalkMix Creater(360 WMC)」の体験、並びに「THE FIRST TAKE」でも使用されているSONY製マイク「C-800G」などが展示されていた。
360 WalkMix Creater
360 WMCは“360度全方向から聞こえる立体的な音楽”を、手持ちのオーディオシステムを使用し作成できる事が特徴だという。実際筆者も体験したのだが、デモ音源では前後左右方向だけでなく、その距離も識別できるほどの解像感をもって音が再現されていた。加えてソフトにはその“音”と連動する点が表示され、ソフト上で点を移動させることによって、自在に音の鳴る方向や距離をコントロールする事ができる。これにより音源の制作者はより直感的に360度音源を作成できるというわけだ。
C-800G
YouTubeでも注目を集める「THE FIRST TAKE」。 会場ではその録音に使用されているものと同一のマイクである「C-800G」がセットされ、ヘッドフォンには「MDR-M1ST」と、まさに本番さながらの環境で実際に発した音声をリアルタイムでモニタリングする事ができる。
C-80
こちらは2022年の12月にコンシューマー向けとして発売されたコンデンサーマイク。前述のC-800Gに近い音質や音の傾向を、より一般層でも購入しやすい価格で実現している。また高い性能を有しながらもC-800Gから大幅な小型化が図られており、他社のコンシューマー向けコンデンサーマイクと比べても一回り小さく、自宅にも設置しやすい。
ポップガードと比べるとその小ささがわかりやすいだろうか。
OTOTENはワンランク上の視聴が可能なオーディオイベント
こちらの事情で大変恐縮ではあるのだが、あまりにも出展されている製品数が多く、今回は「ニアフィールド」という切り口で取り上げるブースを絞りご紹介させていただいたのだが、お楽しみいただけただろうか。
(筆者の趣味により一部脱線も挟んでしまったが、そこは見逃していただきたい。)
冒頭でも触れた内容にはなるが、この「音」というジャンルと部屋ごとに区切られた展示スペースは非常に相性がいい。スピーカーを視聴しようと思った際、他の音と混ざらず純粋にそのスピーカーを聴ける場というのは、実のところ量販店などではほとんど存在しない。しかしOTOTENにおいては上記の特徴から、その製品に没入し体験する事が可能だ。 今回メインでは取り上げてないものの、特にホームシアター系などはメーカーや機種ごとの違いをより感じる事ができるはずだ。
最新機器をはじめ、多くの製品を視聴することのできるOTOTEN。スピーカーをお探しの方は是非とも足を運んで、メーカーや製品ごとに異なる“こだわりの音”を体験してみていただきたい。
イベントは国際フォーラムにて今日(2023年6月25日)まで開催中だ。
イベント情報
イベント名:OTOTEN2023
開催期間:6⽉24⽇(土)10:00〜19:00 / 6月25⽇(日)10:00〜17:00
場所:東京国際フォーラム ガラス棟全室
〒100-0005 東京都千代田区丸の内3-5-1
特設サイト:https://www.jas-audio.or.jp/audiofair/