先日ワコムから登場したイラスト制作に特化したAndroidタブレット「Wacom MovinkPad 11」。メーカー公式通販価格で69,080 円(税込)という比較的安価な価格ながら、ワコムの最上位液晶ペンタブレットであるCintiq Proシリーズと同一のペン「Wacom Pro Pen 3」が同梱され、8192レベルの筆圧検知が可能という非常に魅力的な製品だ。今回はメーカー様のご厚意で製品をお借りすることができたため、その特徴や描き心地についてレビューしていきたい。
製品概要

ワコム
ポータブルパッド
Wacom MovinkPad 11
DTHA116CL0Z

製品名:Wacom MovinkPad 11
発売日:2025年7月31日
公式ストア価格:69,080円(税込)
製品ページ:https://www.wacom.com/ja-jp/products/portable-pad/wacom-movinkpad-11
持ち歩きやすい11インチクラスのタブレット
実は一度ニュース記事にて特徴やスペックなどは紹介しているが、改めて簡単におさらいしておこう。Wacom MovinkPad 11は名前にも含まれている通り、11インチクラスのAndroidタブレットだ。Android 14を搭載し画面サイズは11.45型(2200 × 1440 px)、本体サイズは266×182×7mm(L×W×H)と平均的。重量も588gと軽く、持ち運びやすいサイズ感と言えるだろう。バッテリー駆動時間は公開されていないものの、バッテリー容量は7700mAhとのことで、丸一日とまではいかないまでも、特にバッテリーが切れやすいという印象もないはずだ。
また外観的な特徴として、ディスプレイがあらかじめノングレア(非光沢)になっている点はポイントの一つ。iPadなど多くのタブレットがグレア(光沢)を採用しているのに対し、イラスト用途がメインになる本製品では、ノングレアかつ紙に近い触り心地となっている。

前面と背面にはそれぞれ、5Mピクセル (前面)4.7Mピクセル(背面)のカメラを備えており、ビデオ通話やちょっとした撮影に利用できる。加えて背面には四隅にゴム足が設置されており、机などに平置きした際にズレにくく、また持ち上げやすい工夫がされている点も特徴だ。

付属品の構成はシンプルで、充電+データ転送用のUSB Type-Cケーブルと、Wacom Pro Pen 3、保証書、説明書の計4点のみ。ケーブルは付属するもののACアダプターは同梱されていないため、スマートフォン用の充電器などを利用すると良いだろう。必要な電力供給能力はUSB PDで18Wだそうなので、USB Type-Cでの接続が可能なACアダプターを選べば概ね問題ないはずだ。

そして性能面ではSoC(System on a Chip)にMediaTek Helio G99を採用し、メモリは8GB、内蔵ストレージは128GBでMicro SDには非対応だ。メモリが少し多めではあるものの、その他のスペックについては低価格帯のタブレットでよく見る構成のため、その動作感は気になるところ。
以降では本製品の特徴である専用ソフト「Wacom Canvas」や、同梱ソフトである「CLIP STUDIO PAINT DEBUT」などを使用しチェックしていこう。
Wacom MovinkPad 11の描き心地は?実際にイラスト描いて検証
さてここからは、製品に触れてみての動作感や描き心地などをお届けしていきたい。まずは専用ソフトであるWacom Canvasからだ。
Androidタブレットをデジタルスケッチブックにする「Wacom Canvas」
Wacom Canvasはワコムが、Wacom MovinkPad 11と併せて発表したイラストアプリだ。本製品にプリインストールされており、画面オフ状態から画面をペンで長押しすることで起動する「Quick drawing機能」によって、描きたい瞬間にすぐ描き始めることができる。
起動はかなり早く、画面ロックの解除なども省略することができるため、まさに”思い立ったその瞬間”描くための機能と言えるだろう。

ワコムの担当者曰く「描くことに集中できるよう、なるべくシンプルな形にした」という言葉通り、ツールがかなり絞られているのもポイントだ。ペンが3種(黒鉛筆、青鉛筆、筆ペン)に消しゴムが2種(大・小)、あとは拡大縮小、進む戻るのみという圧倒的シンプルさとなっており、確かに操作で迷うことはない。目の前にあるものや思い浮かんだものを描くという、スケッチブックがデジタル化されたかのような使い心地だ。

ちなみに一見するとペンの太さ選択すら無いように思えるが、そこはWacom Pro Pen 3が活きてくる。筆圧検知に加え傾き検知が可能なため、実物の鉛筆や筆ペンを使っているときのように、筆圧やペンの角度を変えることで太さを変更することが可能。この辺りも”スケッチブックとペン”に近く感じる所以だろう。

とはいえある程度「デジタルだからこそ」の利便性も担保されており、ピンチイン・ピンチアウトによる拡大縮小やスワイプによるハンドツール的な挙動、2本指タップでの戻る、3本指タップで進むといった、Procreateやタブレット版のCLIP STUDIO PAINTなどお馴染みのイラストアプリと同様のジェスチャー操作にも対応している。これらのアプリを使用したことがある方はもちろん、使用したことが無い方であっても同じくWacom MovinkPad 11にプリインストールされたアプリ「Wacom Tips」にて詳しく解説されているため、迷うことはないはずだ。

一方でデジタルに慣れきってしまった筆者からすると、もう少しデジタルのメリットも残して欲しかったのが正直なところで、例えば左右反転や簡単なレイヤー機能はあっても良かったのではないかと思う。特にレイヤー機能については顕著で、その理由はWacom Canvasで描いたイラストをCLIP STUDIO PAINTに持っていける点にある。

Wacom Canvasには「CLIP STUDIO PAINTで続きを描く」という機能があり、この機能を使うことで描きかけのイラストをCLIP STUDIO PAINTに引き継ぐことができるのだが、その際に白背景つきのpng画像になってしまうのだ。これではWacom Canvasで描いたものはラフとして利用する他なく、ラフとして使用する際にも背景がついてきてしまうので微妙に使いづらい。一応CLIP STUDIO PAINT側の機能で透過素材にも変えられるが、その際には色情報が消えてしまうので、青鉛筆と黒鉛筆の区別がつかなくなるのだ。
もちろんこうした機能は、盛り込めば盛り込むほどシンプルからは遠ざかっていくため判断が難しい部分だとは思う。しかし筆者個人としては「あっても良かった機能」ではないかと感じた要素だ。
「CLIP STUDIO PAINT DEBUT」での描き心地はiPadを凌駕
さて、ここまで読んでくれた読者の声を勝手に代弁してしまうのだが、多くの方にとって気になるのは「で、iPadとどっちがいいの?」という所だろう。現在多くのイラストレーターがイラストに使用しているタブレットといえばiPad Pro(またはAir)+ Apple Pencil Proの組み合わせ。ここにどこまで対抗できるかが、最大の焦点と言ってしまって問題ないはずだ。
そして結論から言ってしまうと、筆者の体感では明確にWacom MovinkPad 11の方が描き心地が良い。CLIP STUDIO PAINT DEBUTを使用した際の描き心地は、筆者が普段使用しているiPad Air(11インチ/M2モデル)+ Apple Pencil Pro + 市販のペーパーライクフィルムの組み合わせを凌駕している。

上の写真を見て分かる通り、筆者自身は別にイラストを仕事にしているプロではなく、趣味で描いているレベルの一般人だ。しかし、それでも分かるレベルで描きやすさが違う。
適度なザラつきを持った画面とWacom Pro Pen 3の組み合わせは、まさしく紙に描いているかのようにペン先に適度な”かかり”を感じさせ、ほとんど手ブレを発生させない。その結果、意図した線からズレて線を引いてしまう、いわゆる迷い線が消え、Wacom MovinkPad 11で描いているだけで自分が上手くなった気さえしてくるのだ。「弘法筆を選ばず」という諺(ことわざ)があるが、弘法ではない筆者は筆と紙を選ぶべきだったのかもしれない。
一方でiPadと比べた際に、明確な欠点になってしまうのがスペックが高くないことで起こる処理能力不足だろう。
以前筆者がiPadでラフや落書きに使用したデータ(キャンパスサイズ5000 × 8000 px、レイヤー数100枚程度、容量50MB)のCLIPファイルを読み込ませたところ、ペンの描画に問題はみられなかったが拡大縮小などに遅延が感じられた。また完成済みのイラストデータ(キャンパスサイズ5000 × 7000 px、レイヤー数50枚程度、容量110MB)を読み込ませた際には、メモリ不足のアラートが表示されるなど、高解像度データやレイヤー数の多いファイルには向いていないことがわかる。同人誌や展示パネルなど高解像度データを扱う必要が有る方や、漫画などを描くことを想定するならWacom MovinkPad 11は選択肢から外れそうだ。
イラスト向けとして、描き心地・コスパは最高峰。Wacom MovinkPad 11はエントリーにベストな1台
総合すると、Wacom MovinkPad 11はイラスト向けのタブレットにおいて、エントリーとしてはベストな1台だ。
ワコム謹製のタブレットということもあってか、描き心地においては間違いなく最高峰。前項で言及した処理能力についても、税込7万円弱という価格を考えれば必要十分な範囲と言える。もちろん同価格帯において、より高い性能持ったタブレットも多い。特にゲームなどを視野に入れた場合は「向いてない」と言うほか無く、総合性能では別製品に軍配が上がるだろう。しかしイラスト用途に限定した場合、対抗できる製品は他に無いはずだ。
「Wacom Canvas」をはじめとした描くことに特化した機能はもちろん、Wacom MovinkPad 11には「CLIP STUDIO PAINT DEBUT」というエントリーモデルのライセンスが2年分付属しているため、ダウンロードすればすぐに本格的なイラスト制作に挑戦することが可能。またBluetooth 5.2に対応しているため外付けキーボード等も接続可能で、市販の左手用キーボードなどを用意すればCLIP STUDIO PAINTなど機能が多いソフトも直感的に操作できる。
これまでタブレットでは描いてなかった方や、これからイラストに挑戦する方が買う初めの1台として、間違いなくコストパフォーマンスが良い製品だ。

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