読者諸氏は、モバイルバッテリーなどの充電機器はどこのブランドのものを使っているだろうか?
国内外を問わず様々なメーカーの製品が溢れている中で現在、日本国内でもハイペースでユーザーを増やしているのが、Ankerグループだ。黒基調のものを中心に、洗練されたデザインのプロダクトを目にした記憶がある人も多いだろう。
それもそのはずAnkerグループの日本法人アンカー・ジャパンは、2023年度の売上494億円を達成し、前年比で41%の成長を遂げた(※プレスリリース)。一方でデザイン面や製品自体の魅力もさることながら、Ankerグループの製品が支持される理由は、満足度の高いサポート体制を構築していることも大きいはず。今回はそんなある種裏側に潜んだ魅力、「アンカー・ジャパンのサポート体制」について深掘りすべく、同社のカスタマー・サポート部門を管掌するアンカー・ジャパン執行役員 / カスタマーエクスペリエンス本部長の井田真人氏に話を聞いた。
井田真人(いだまこと)
アンカー・ジャパン株式会社
執行役員 / カスタマーエクスペリエンス本部 本部長
ニコンにて半導体業界品質保証業務を経験後、ヴァレオジャパンにて自動車業界品質保証業務に従事。アジア地域品質統括部長、海外工場品質保証部長などを経て、グローバルに製造業に関わる品質保証業務全般を経験。アンカー・ジャパン参画後は、顧客対応・品証・リサーチ・テクニカルサポートチームを率いるカスタマーエクスペリエンス本部長に就任。多角的な方面から製品状況、カスタマーボイスを分析し、顧客体験の向上とお客様サポート業務を担う。
Anker Japan
公式オンラインストア
3ヶ月で修理サービス事業を起ち上げた
——今日は、よろしくお願いします。いきなりですが、現在お邪魔しているここはどのような施設ですか?
アンカー・ジャパン/井田真人氏(以下、井田):
不具合のある製品を、お客さまからお預かりして修理を行なっている修理センターです。
ここでは修理だけでなく、製品の不具合調査なども行なっています。不具合調査とは、お客さまからお預かりした製品がどのような症状なのか確認する作業です。調査によって、不具合が確認できたら実際の修理に進むという手順をふむことで、背景を理解した上で適切な修理を行うことができます。
——ありがとうございます。修理サービスについては後ほど詳しく聞かせください。井田さんは、どのような経緯で入社されたのですか?
井田:
私は、半導体業界、その次に自動車業界と、製造業界で品質保証業務に携わってきました。実はアンカー・ジャパンのメンバーはコンサルティング企業やメーカーなど、様々な業界での経験がある人が多いのですが、その中でも珍しいキャリアだと思います。
これまでの経験を活かしながら、より裁量権の大きな仕事をしてみたいと考えていたときにお声がけいただきました。当時は、外資系メーカーのタイ支社で働いていたため、Ankerグループのことは「モバイルバッテリーのメーカーで、日本でも売れ始めている」ぐらいの認識しかありませんでした(苦笑)
その後、事業について詳しく教えていただき急成長中であること、さらに(これは今でも会社全体で大事にしていることですが)ベンチャー気質というか、新しいことに積極的にチャレンジする姿勢に魅力を感じて、入社を決めました。
——井田さんがジョインされたタイミングで、すでにカスタマーサポート部門や修理部門の体制は整っていましたか?
井田:
いいえ。Ankerグループの中国にある本社(Anker Innovations Technology Limited)は2011年、日本法人のアンカー・ジャパンは2013年設立と、まだ歴史が浅い会社ということもあって私が入社したタイミング(2020年)では、カスタマーサポートのみ行なっており、修理業務は行なっていませんでした。
ですが、「お客さまが愛着を持って使用されている製品を長く使い続けていただきたい」「不具合を修理して使用いただくことで、メーカーとして環境保護につながる取り組みがしたい」といった思いがあり、専門的に取り組んでいくべきだという経営判断の下、独立した修理部隊を構築することが決まり、プロジェクトが始動してから3ヶ月ほどで修理サービス事業を起ち上げました。
——3ヶ月は、驚異的なスピードですね!
井田:
そうですね。中国のグループ本社にも独立した修理部門は存在していなかったので、先に日本法人側でプロジェクトがスタートしました。
まずはメンバーを集めることから始めて、修理ができるビルも探しながら、メンバーのトレーニングにも同時並行で取り組みました。
——短期間で結果を出せた原動力を教えてください。
井田:
やはり、現場の裁量権が大きいことですね。会社が成長するためには必要だと提案すると、まずはチャレンジさせてもらえる環境です。
加えて会社として「全体最適」という考え方を大事にしています。1+1=2ではなく、3とか4、それ以上。会社全体で相乗効果を生み出すにはどうするべきかという意識を全社で持っています。
あとはアンカー・ジャパン社員の平均年齢が31〜32と、若いことも大きいと思います。
若い人たちを中心に、新しいことをどんどんやっていこうという空気があります。
グループ本社も認めるアンカー・ジャパンのホスピタリティ
——井田さんの肩書きは、カスタマーエクスペリエンス本部長とのこと。修理サービスだけでなく、カスタマーサポートなども管掌されているのですか?
井田:
はい。修理サービス、カスタマーサポートに加えて品質管理、リサーチ&アナリティクスという製品の使われ方やサポート業務などから得られるデータの分析、ロジスティクスなどのサプライチェーンも私のチームで見ています。
——素人質問で恐縮ですが、データ分析となると御社のマーケティング部門とはどのように役割分担をされていますか?
井田:
リサーチ&アナリティクス業務としては、製品を市場に出した後にユーザーからの問い合わせや、不具合が発生した際の対応などから得られるデータの分析を行なっています。
Ankerグループでは、データ分析から得られるVoC(Voice of Customer、お客さまの声)をとても重視しています。
どのような要望があるのか、製品への期待などを数値化するという面もありますが、たとえ数としては少ない声でもしっかりと分析して、現行製品の改善や今後の製品開発に役立てています。
アンカー・ジャパンが急成長できている背景には、お客さまの声を徹底的に分析して製品開発や販売に活かす「カスタマーファースト(顧客第一主義)」を大事にしていることがあると思っています。
——カスタマーサポート部門は現在、どれくらいの規模ですか?
井田:
現在は60名ほどです。私が入った当初は、20名前後でした。
約2年で3倍ほどに急拡大できたのは、製品の種類が多いことと、事業が年々大きくなっていることが背景にあります。本当にありがたいことです。
製品出荷数が増えていくのと同時に、製品のバリエーションも増えていくということは、お問い合わせの内容も多様化・複雑化していくことになります。
それにしっかりと対応するための体制づくりにも日々取り組んでいます。
——問い合わせ件数の増加に対応するための体制強化と並行して、サポートのクオリティを維持する必要もありますよね。どのように両立させているのですか?
井田:
新たに入社したメンバーについては、オンボーディング時のトレーニングが大切だと思っています。まだ道半ばですが、当社の製品についてまずは知ってもらうようにしています。その意味では自分自身がユーザーというメンバーが多いですね。
あとはナレッジの蓄積とその共有も重視しています。
——こうしたナレッジは、中国のグループ本社と連携して蓄積するのでしょうか?
井田:
合理的な理由や効率化の方法があれば、どんどん取り入れようという社風なので、日本法人で独自のツールやシステムも使用することもあります。もちろんグローバルとして統一されたフォーマットやシステムも存在しますが、良い意味でそれに固執しないというか。
この修理部門の立ち上げも、日本独自で取り組みを始めた後にグループ本社へも広がったように、日本法人での取り組みが、グローバルでも採用されることがわりとありますね。
Ankerグループ全体として、より良いやり方があれば積極的に採用していく。常にアレンジを加えながら改良を重ねています。
——アンカー・ジャパン独自の取り組みがグローバルでも採用されるというのは、月並みかもしれませんけど、日本人の丁寧さみたいなものが評価されているということでしょうか?
井田:
それはあると思いますよ。他国を見ても、日本のお客さまは細かな点によくお気づきになる方が多く、そうした方にも満足いただける製品やサービスレベルを担保することで、「細かすぎるかもしれないけど、このルールで徹底できればグローバルでも多くのお客さまに満足していただけるよね」という意識は常に持っています。
そうした姿勢が認められているから、アンカー・ジャパンからの意見や提案をグループ本社にも尊重してもらえているのかなと感じています。
修理対応から派生した、ユーザーエンゲージメント
——修理サービス事業を約3ヶ月で起ち上げたとのことですが、初期メンバーはどのような人たちで構成されていたのですか?
井田:
当時はこの施設のように修理を行う場所も、専属のメンバーもいませんでした。
もちろん社外から修理業務のスペシャリストに入っていただくというやり方もありましたが、初期メンバーはカスタマーサポートチームから募りました。
実はこの修理センターの社員一号は、前職はCAだった人なんです。全然ちがう職種で社内でもキャリアを重ねてきたけれど、「面白そうだ」「やりがいがありそうだ」と手を挙げてくれた人が中心となって、修理業務の知識ゼロからトレーニングを経て活躍しています。
最初は僕を含めて3人だけでした。グループ本社としても日本法人としても新規事業であり、修理に関する情報が限られている状態だったので、製品を分解してみながら、修理の仕方を模索していきました。
——その意味では、余計な先入観がなかったことが良い結果につながったのかもしれませんね。
井田:
そうかもしれませんね。お客さまにご満足いただきたいという気持ちが一番かなと、改めて思います。
あとは、”やりぬく力”を持っていることも大切ですね。
電動工具も扱うので、経験や専門知識も疎かにはできませんが、あきらめずに熱意をもって取り組む姿勢が、新しいことにチャレンジする上ではかかせません。
実は他部署でも同じようなことがあります。未経験だけど、やる気が認められて大抜擢というのが多い会社だと思います。
——修理は、どのようなワークフローで行われていますか?
井田:
大きなながれとしては、まずお客さまから製品が不調であると問い合わせがあります。
カスタマーサポートとのトラブルシューティングのコミュニケーションによって解決する場合も多くあるので、まずはそちらのチームがお客さまとやり取りをさせていただきます。
それでも解決しない場合は、修理センターへ製品を送っていただき、症状を確認します。
そして実際に症状が確認できたら修理を行い、症状が解消されたことを確認した上で、製品をご返却するというながれですね。
基本的には、製品をお預かりしてから5営業日以内に症状の確認から修理までの一連の作業を完了させるようにしており、現在までそのルールを100パーセント守ることができています。
修理作業を終えたら、しっかりと清掃をさせていただいて、できる限り綺麗な状態にしてから梱包することも徹底しています。
——充電関連機器の「Anker」、オーディオ機器の「Soundcore」、スマート家電の「Eufy」、そしてスマートプロジェクターの「Nebula」と、全てのAnkerグループ製品の修理を行うわけですよね? 製品の種類が多岐にわたって大変じゃありませんか?
井田:
先ほどお話したように、自分たち自身が製品のユーザーであり、製品に対して愛着のあるメンバーが多いことにも支えられているかもしれません。
あとは、新製品のサンプル品は修理担当が実際に試せるよう、全てこの場所にも置くようにしています。アンカー・ジャパンからはハイペースで新製品を発売していますが、サンプルが届いたらすぐに試すようにしています。
——お客さんとのやりとりで印象的だったことはありますか?
井田:
実は、お手紙を同封していただくことが多いんですよ。
例えばロボット掃除機を修理でお預かりするなかで、名前を付けていらっしゃる方が多いことに気づきました。
お子さんがすごくかわいがっていらして「〇〇ちゃん(ロボット掃除機の名前)を返します。この子を直してください」といった文面のお手紙を読むと、しっかりと直さなければと思います。
先ほど、綺麗に清掃してからお返していると話しましたが、そうした製品の場合は、かわいがってくださっていることが窺えるお子さんのシールなどが貼られていることも多いので、清掃する際も剥がれないように配慮しています。
——素敵なアニミズムですね!
井田:
お返しした後にも「修理してくれて、ありがとうございました」といったフィードバックをいただけることも多いです。ここで働いているメンバーのやる気にもつながりますよね。
「やっていて良かったな。もっとがんばろう」って、思います。
Ankerグループ製品を選んで良かったと思ってもらえるように
——ところで、修理センターが川崎に所在している理由を教えてください。
井田:
いくつか候補地がありましたが、弊社が川崎フロンターレさんとトップスポンサー契約を結ばせていただいていることや、川崎市さんとも色々な取り組みでご一緒させていただいていることなどが後押しになったかもしれませんね。
川崎フロンターレさんとはホーム試合が行われる当日に、不要になったモバイルバッテリーの回収を行うブースを出して、安全な回収とリサイクルを目的とした取り組みも行なっています。
——モバイルバッテリー回収と言えば、環境省と一緒に啓発活動にも取り組まれていますね。
井田:
6月5日が環境の日(World Environment Day)ということで、そこから環境省さんにご協力いただき「モバイルバッテリーの適切な処分方法の啓発活動」という取り組みを実施中です。
特設ページの公開や、SNSキャンペーンのほか、中学校に私たちが訪問させていただいて、モバイルバッテリーの安全な使用方法や適切な処分方法についてクイズ形式で楽しみながら学んでもらう勉強会などにも取り組んでいます。
——最後に、カスタマーエクスペリエンスの面から今後の展望を教えてください。
井田:
Ankerグループでは、お客さまの生活を豊かにする様々な製品を業界に先駆けて世の中に提供していきたいと考えているので、これからも今までなかったような製品を展開していくと思います。
そうした新しい製品も、ご購入前後のサポートや修理がかかせません。今後も快適にご利用いただけるように体制を強化していきます。また、環境保護などSDGsへの取り組みという意味でも修理サービスはさらに重要になっていくと思っています。
黒子的な部署なので、私たちの取り組みが売上に大きな貢献をもたらすとは考えていませんが、これからもお客さまを第一に、親切丁寧に取り組んでいくつもりです。
——ありがとうございます。さらなる展開にも期待しています!
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